壁を破るサイクル
コーヒー文化の発展の流れをとてもわかりやすく紹介している、2007年世界バリスタチャンピオンでロンドンのSquare Mile Coffee Roasters代表のJames Hoffmannの動画がとても面白く本質的だと思ったので、思ったことをまとめてみます。
みなさんも動画をぜひ見てみてください。
1人ではただの物好き。コミュニティになれば大きなムーブメント
印象的だったのは、彼がバリスタ世界一になった翌年2008年の話。
ただ1人コーヒーの質を追いかけている物好きだと思っていた彼が、同じようにコーヒーの質を追求する人々と出会い、自分一人狂っているわけではなく、コミュニティがそこにはあり、ムーブメントであり、変わりゆくターニングポイントなんだと確信した瞬間。
If you're just one person, you're a crazy person. But if you have a community of people all saying the same thing, this becomes a whole other thing.
- 1人だけなら狂っているだけかもしれない。でも同じことを主張するコミュニティがあるのであれば、それは全く違うことだ。
▲ロンドンのコーヒーブームの火付け役にもなったflat white.
誰もコーヒーの味なんて気にしていない、コーヒーが美味しくなくてつまらない、
そんな停滞の壁に対して、質の高いコーヒを追求しよう、発信しよう、という熱いエネルギーが集まって1つのムーブメントとなり、スペシャルティコーヒーブームに。どんどん質にこだわる自家焙煎のコーヒーショップが増えていった結果、最初の間は武器になっていた美味しさや質の高さが、当たり前になり強みにならない時代に。
資本主義の波に飲まれ、価格競争やコストカット、家賃との戦い。ユニークだったものがメインストリームへと引きずり戻され、大手が小さなコーヒーショップを相次ぐ買収。また停滞の時代に。
停滞と打破は循環する。
イギリスだってアメリカだって日本だって、さらにはコーヒーにかかわらず、全く同じようなサイクルをたどっていると思う。
きっかけが繋がってメインストリームに
なにか時代の中で壁があった時、どんな風にその壁を打破していくか。全ての物事が同じような流れだと思った。
1、その壁に対する打開策としてのきっかけが生まれる
2、そのきっかけに共感が生まれ、点がつながり、コミュニティとなる
3、コミュニティが波を生み、変化が加速する
4、新しく生まれたモノが徐々に定着し、新しい壁を生み出す
例えば川の流れが岩によって遮られてしまった時どうなるか。水の勢いは氾濫を起こし、横道に逸れる新しい岐路ができる。逸れた水は徐々に流れが増し、新しい川となり、その先にはいつかまた同じような岩が出現する。
日本のコーヒー文化は今どの位置か。この先にはどんな壁が生まれてくるのか。
過去のワイン文化、ビール文化はどんな壁に当たってきたのか。
コーヒーはまさに今変わる文化だから面白い。
バリスタはアーティストというよりもデザイナー
こんにちは。川野優馬です。
コーヒーショップをやっています。
お店オープンまでの道のりはこちらをご覧ください。
コーヒー Advent Calendar 6日目。
さてさて、僕たちがコーヒーショップに行ってコーヒーを楽しむことができるのは、「バリスタ」というコーヒーを作るスペシャリストがいるからです。
でもバリスタには実は資格もありません。名乗ってしまえばバリスタ。心構えも人それぞれ。
今日はそんなコーヒーを作るバリスタはどんなスタンスであるべきか。会社経営やデザインの話と絡めながら考えていきたいと思います。
バリスタのスタンス
バリスタという仕事。簡単には、「コーヒーを作る仕事」ですが、LIGHT UP COFFEEでは、バリスタとは農家さんがつくったコーヒーという素材を、適切な形にして仕上げて「お客様に伝える役割」だとしています。
なんでかというと、コーヒーの味を作るのはあくまで生産者だという立場を貫いているからです。
ただ一方で、バリスタは自己表現の1つだという考えもありますよね。芸術家のように自分をコーヒーを通して表現する。自分の感性をコーヒーの味に落とし込んで披露する。
▲お店にはお店ごとにいろいろなコンセプトがあり、コンセプトを追求した商品がそこにあります。
そのお店のコンセプト次第で、どんなバリスタのありようも正解だと思っています。オーナーの目的あってのお店なので、目的に沿ったコーヒーがそこにはあるべきです。
ただ、お店の目的が、「コーヒーを伝える」となった時には、バリスタは「伝わる形」でコーヒーを提供する必要があります。
お客様に伝わってないと思ったら、何が要因で伝わらなかったのか分析して、伝わる形に変容させないといけない。
そういう意味では、伝えることに意義を置くバリスタとはアーティストではなくデザイナーなのかも知れないと思いました。
▲実は去年までコーヒーショップをやりながらリクルートのUXデザイナーとして働いていました。
今はそんなお店はありませんが、コーヒーショップでコーヒーを注文して、砂糖を入れようとしたらバリスタに怒られたりとか、
酸っぱいですね、苦いですね、とコメントしたらバリスタが否定された気持ちになるのは、「伝える」という意識の上では良くはない気がします。
これはフルーツの酸なんで酸化した酸とは違いますよと言っても、酸っぱいと思ったらそれはお客さんにとっては酸っぱい。 自分が作ったものだからこそ感情は籠るけど、目的は伝えるということだと意識しないといけないと思います。
そんな心構えが、WEBデザイナーさんがデザインして、修正対応を食らったり、いまいちリリース後に結果が伸びない時の、プロダクトに情念を乗せずに結果を冷静に振り返るべきな状態に、とてもよく似ていると思いました。
作ったコーヒー(プロダクト)が自分の分身そのもの、のように念が乗っていると、切り替えが難しいと思います。プロダクトを否定されたことがすなわち自分を否定されたわけではなく、伝える手段が違っていただけ、と考える方がいいはずです。
そういう意味で、プロダクトへの否定的意見を素直に受け入れて、「どうやったら伝わるか?」「ユーザーは何を求めているのか?」を考えて、伝わる形に常に変化し続けていくことが、コーヒーでもデザインでも大切だと思いました。
▲感覚的なコーヒーだからこそ、伝えるのはとても難しいです。
打率とサイエンス
伝わる形にするために、常に美味しくするために、コーヒーの抽出理論もとても大事です。どうやって味が出てきて、どんな淹れ方にするか、といったレシピのことです。
コーヒーも経営もデザインも、感覚で舵を切ることと、理論で意思決定すること、両方があります。
でも僕は、アートとサイエンスが常にある比率で存在しているわけではなく、積み立てた理論の先に感覚の判断があって、理論をどれだけ積み立てて、リスキーな感覚的判断の割合をいかに減らせるかが大事だと思います。
毎回美味しくなるように、何gの粉で何mlのお湯を注ぐか、もっといくとどんな豆でも通用するような粉とお湯の比率、抽出率など、メソッドを確立して論理化してしまえば、「じっくり」「しっかり」「こんな風に」といった感覚的で属人的な判断で味がブレることが減っていきます。
▲コーヒーが美味しくなることにも、ロジックがあります。
打率を上げるために、リスクを減らすために、どうやって積み立てた理論で足場を作るか。
僕は経営もデザインも素人ですが、なんとなく経営でもデザインでも同じことが言える気がします。
そう考えると、伝える職業だからこそ、伝わるロジックを明確化して伝わる確率を増やし、そして伝わっているかを常に観察していくことは、とっても大事だと思いました。
LIGHT UP COFFEEのコーヒーは本当に伝わっているかな。
色とりどりで、作り手ごとに個性が溢れていて、明日も飲みたくなるような、冷めた最後の一口のバランス。
慌てた眠気覚ましではなく、インスピレーションやリラックスを感じる、豊かな1杯。
まだの方は、頑張ってお伝えするので、LIGHT UP COFFEEでお待ちしてます!
LIGHT UP COFFEEの川野が今思うコーヒーの生産の話。
こんにちは、川野優馬です。
僕はコーヒー屋さんをやっています。今思うコーヒーへの思いについて書いてみようと思います。
この記事はコーヒーAdvent Calendar 2016の2日目の記事です。
伝えたい一心でオープンしたLIGHT UP COFFEE
僕は今から2年前、2014年の夏に吉祥寺にLIGHT UP COFFEEという名前でコーヒーショップをオープンしました。(オープンまでの流れを去年の記事にまとめています:
▲吉祥寺のLIGHT UP COFFEE。毎日たくさんの方に来て頂いて、本当に有難うございます。
オープンした当時はとにかく、自分たちが衝撃と感動を受けた苦味のないフルーティなコーヒーを知ってもらいたい、みんなコーヒーがただの苦い飲み物だと思ってるのを変えたい!ただひたすらそんな思いでした。
とにかく丁寧に作られたコーヒーの素材の味を伝えることに注力して、来てくれたお客さんには1人1人にコーヒーの風味に魅力を伝え続け、毎週末には欠かさずコーヒーセミナーを開催してきました。気づけば開催したコーヒーセミナーはもう100回以上。外にもどんどん出向いて、仙台や大阪、時には由比ヶ浜のビーチでコーヒーを淹れたり、伊勢丹やマルイにも催事出店したりしました。
▲日本全国、とにかくコーヒーを楽しんでくれる人をもっと増やしたいとの思いで、セミナーイベントを連発してきた2年半でした。
今年2016年の10月には、関西の人にも伝えたいとの思いで、思い切って2号店を京都にオープンしたりしました。(京都店についてはこちら:京都店をオープンして1ヶ月。 | LIGHT UP MAGAZINE)
▲京都店はこんな感じ。木をふんだんに使いすぎて内装費もオーバーしてしまったほど、めちゃくちゃいいお店です。
コーヒー生産の魅力
ただ、今は、コーヒーの魅力を伝えるのはもちろん、もっともっとやりたいことが膨らんできてしまいました。
僕は去年の夏、初めてコーヒー農園を訪れ、収穫から精製までを体験し、想像を超えるほどの地道な仕事と、それを丁寧にこなす凄さを身にしみて体験してきました。(バリ島での生産体験の記事はこちら:川野の農園訪問記 – バリ島の精製改善 | LIGHT UP MAGAZINE)
▲1粒1粒自分の手で収穫して、その後の一連の工程も1つ1つ体験してきました。
本や写真ではよく見て知ってはいたけれど、生産地には体験してみないとわからない現実がありました。僕らコーヒーショップは「丁寧に作られたコーヒーの〜」とかよく言うけれど、丁寧の度合いも人によって違ければ、丁寧に仕事をするモチベーションも違います。
具体的にはこんなエピソードがありました。
去年訪れたインドネシア・バリ島の農園。精製といって、コーヒーの実を収穫してから、種を取り出し洗って乾燥させるまでの一連の工程、これがとってもダメでした。果肉を取る機械は汚いし、発酵槽は臭いし、水洗は不十分だし、乾燥も地面に撒くせいでホコリっぽい匂いになってました。なので、精製に詳しい別の農園の人も呼んで、世界中の色んな新しい方法も勉強し、この農園での1つ1つの工程を1から教え直しました。
それで出来上がったサンプルを日本に持ち帰り、ローストして味見してみると、去年までの出来が信じられないくらい、驚くほど美味しいコーヒーになっていました。インドネシアなのに、まるでコスタリカのコーヒーのように透き通って甘く、どう考えても今まで飲んだアジアのコーヒーで一番の味でした。
ただ、その後1ヶ月後にできたサンプルはなぜか元の雑味の多い味に戻っていたんです。直接農園まで行って現場を見てみると、原因は、農園のマネジメントにありました。初回のサンプルは、1つ1つの工程の意味を理解した農園主が直接作ったコーヒーなのに対し、2回目以降は労働者たちが言われたまま作ったコーヒー。思い入れもなく、おそらく見えないところで手を抜いていたコーヒーでした。
年中暑い国なので、もしかすると日本人のようにストイックにこなす性質は弱いのかもしれません。なんというか、日本がどれだけ人に期待しているのか、少し考えさせられました。日本では言われたとおりのことしかできないのがダメだと言われるけど、インドネシアでは言われたとおりにやってもらうのがどれだけ大変か。
▲バリ島の農園にて。果実の選別から水洗、発酵、乾燥まで、1つ1つ丁寧に突き詰めると、驚くほど美味しいコーヒーが出来上がりました。
とにかく、去年のこの体験で、ものづくりとしてのコーヒー生産の魅力にとりつかれ、美味しいコーヒーを作る難しさも学び、そしてなにより、しっかり作ればアジアでも感動的な風味のコーヒーが作れるんだということを実感しました。
ちゃんと作ればアジアのコーヒーも美味しいんです。
世界では最低評価のアジア産コーヒー
スペシャルティコーヒーの市場において、アジアのコーヒーへのイメージはおそらくこんな感じです。Bold, Earthy, Dusty, Nutty, Strong...。強いテイストで土臭くて、パンチがあるコーヒー。アフリカや中米でよく例えられるフルーツのような甘み、上品でクリアな風味の印象はありません。
僕は、このアジアのコーヒーの質を変えたいと思っています。
評価の低いアジアのコーヒーですが、実は世界の30%以上の生産量を誇っているんです。アフリカや中南米のコーヒーは毎年価格が爆発的に高騰。世界では美味しいコーヒーの需要と供給が合っていない状態。数年後には、特に美味しいコーヒーは非日常的な値段じゃないと楽しめなくなっているかもしれません。
そんな時にアジアでも美味しくコーヒーが作れたら、、、何よりも美味しく作れるポテンシャルはあるのに、情報や人がうまくいっていないせいで低い評価になっているのはもったいなく感じます。
▲日常飲むコーヒー、淹れ方なんかでも焙煎方法なんかでもなく、味のほとんどがこの生産で決まります。それも当たり前、コーヒーは農作物なんです。
ホコリっぽい匂いは地面に撒いて乾燥させるから。透明感がないのは、水洗が不十分だから。ナッツのような嫌な風味がするのは熟度が揃っていないから。美味しくない多くの原因は「精製」にありました。この精製を良くするだけで、一気に美味しくなるはずです。
農業としてのコーヒー。アジアには教えに来る人も少なく、農園はどうやったら美味しく作れるのか?さらには美味しいコーヒーとはどんなコーヒーなのか?そんなことをよく知らないまま、ただ作っているだけの状態でした。
アメリカの人たちは近くの中南米に、ヨーロッパの人たちは近くのアフリカによくコーヒー生産の改善に行っています。自国に大きな市場を持っているので大きな投資をして、様々な設備、場所、流通を作っています。だからこれだけ急速に美味しいコーヒーが増えてきたのでしょう。ただ、アジアはそんな欧米の人にとってもまるで秘境。エキゾチックで、距離も遠く、なかなか伝えに行く人もいないと聞きます。良い品種も良い農園もそこにあるのに、美味しく楽しめないなんてもったいなくないですか!?
▲アジアのよくわからない山奥になんて、欧米の人たちはなかなか指導や投資には来ないんです、、。
アジアのコーヒーを変えたい
日本人に生まれたからこそできることがあるんじゃないか、そう最近は信じています。
今年にはインドネシアとベトナムの農園を訪問しました。目的は、生産の指導。味だけは確かに判断できるので、いろいろな精製を試し、その土地にあったプロセスを見つけに行きました。美味しかった分だけ高い値段で買い取っています。
ベトナムに行ってきた時の様子です。ぜひ読んでみてください!
何よりもいいことは、美味しいほど高い値段で買われるので、農家の収入が上がること。それも、「美味しいから」と努力を認められて報酬が渡るので、農家にとっては非常に嬉しいことです。さらに、美味しいので飲む側もハッピー。美味しいからどんどん飲む人も増えて、どんどん美味しく作る農家が増えて、といいサイクルをもっと作りたいと思っています。
だからこそ、美味しく作る農家を増やし、同時にその魅力をもっとたくさんの人に伝えていきたいです。
今年指導に行ったベトナムのコーヒー、とっても美味しくできたので来年お店でも扱おうと思っています。初の直接指導直接取引のコーヒー。日本のみなさんにお届けできるのがとってもたのしみ!
▲これはベトナム・ダラットの農園でケニア式の精製を試してみた時の様子。ちゃんと作ればアジアのコーヒーだって美味しいんだ!
コーヒーは奥が深いとかよく言うけれど、シンプルに農業なんです。農作物としてのコーヒーを正しく流通させることが僕の今の夢です。その中でも身近なアジアにこだわりたい!
来年はまたこの時期にどんなことを思っているかわからないけれど、なんとなく今僕が思うコーヒーのことを、あるべきコーヒーの形を知ってもらいたくて長々と書いてみました。
読んでくれたみなさんありがとうございます!
LIGHT UP COFFEEについてはこちらのWEBよりどうぞ。おいしいマメあるよ。
僕がコーヒー屋を始めたわけ
コーヒーショップをやっています
こんにちは。川野優馬です。
僕は去年、大学4年の夏に吉祥寺にLIGHT UP COFFEEという名前でコーヒーショップをオープンしました。
店舗で豆の仕入れから焙煎までを行い、豆・ドリンクの販売を行っています。
飲み比べもできます。
先月は伊勢丹でも出店させていただくことができました!
WEBメディアにもいくつか取り上げていただいているので、よかったら見てみてください。
コーヒーの仕事はとっても面白く、コーヒーを通して世界の見方が変わりました。
今回はそんなコーヒーの魅力と、コーヒー屋をはじめたきっかけについてお話ししたいと思います。
ラテアートとの出会い
なぜコーヒーショップをやろうと思ったのか?
大学1年の頃なんとなくカフェでアルバイトを始めたのがはじまりでした。
ただ仕事をするのもつまらないので、YouTubeで見よう見まねでラテアートを始めてみました。
注ぎだけで模様ができることはとっても不思議で、練習するうちにどんどんのめり込んで行きました。
一緒にLIGHT UP COFFEEを立ち上げた相原民人ともそこで出会い、他の仲間と一緒にラテアートの練習をするようになりました。
こんな模様を自由自在にコントロールするのがとっても気持ちよくて、お客さんが喜んでくれている以上に自己満足に陥っていました。
気づいたら練習しすぎて全国大会で優勝していました。
コーヒー巡りにはまる
ラテアートが見たいがためにいろんなコーヒーショップを巡りました。
その中で気づいたのは、美味しいカフェラテと美味しくないカフェラテがあること。
それはラテアートの美しさとは関係ない部分でした。
だんだん味が気になってきて、「美味しい」と言われるコーヒーショップも巡ってみました。
そんな4年前に衝撃を受けたコーヒーショップが、ONIBUS COFFEEとFUGLEN TOKYOです。
ノルウェーのコーヒーにビビる
ONIBUS COFFEEは東京のロースター(焙煎から行うコーヒーショップ)です。今は渋谷道玄坂にABOUT LIFE COFFEE BREWERSという2店舗目のお店も出しています。
当時のONIBUSのエスプレッソは、ナチュラル精製と呼ばれる、コーヒーの果実ごと乾燥させるプロセスで作られたコーヒー豆を使っていて、フルーティでとにかく甘いコーヒーを出していました。
僕はONIBUS COFFEEの圧倒的に甘いカフェラテが大好きで、一気に味に興味が湧きました。
もう1つのきっかけはFUGLEN TOKYO。ノルウェー オスロからきたコーヒーショップです。
当時はTIM WENDELBOEという焙煎・バリスタ世界チャンピオンのコーヒー豆を使っていました。
本当にコーヒーかと疑うほどジューシーで果実味にあふれ、苦味は皆無。フレーバーティのように飲み易い衝撃のコーヒーでした。
この2店舗に出会い、自分もこんな美味しいコーヒーをつくりたいと思うようになりました。
焙煎をはじめる
美味しいコーヒー「豆」からつくりたかったので、焙煎をやろうと思いました。
銀行に行って、焙煎機が買いたいですと言って、焙煎機を買いました。
リビングの壁に穴を開けて、食卓の横に業務用焙煎機が設置されました。
ロースターの誕生です!
とりあえず焼いてみる
消費できる限界まで焙煎を続けました。
コーヒー生豆は専門商社から仕入れました。
ブラジルからエチオピアまであらゆる産地のコーヒーを、美味しかったコーヒーの記憶を頼りに、焙煎しました。
いろんな温度・時間を試しました。
それなりに美味しいけど、特に感動もない。
足りなかったのは「美味しいコーヒーの経験」でした。
ロンドン・ノルウェーで100杯のコーヒーを飲む
その夏、ローマ・パリ・ロンドン・オスロ・コペンハーゲン・ストックホルム・ヘルシンキ と、世界のコーヒーショップ巡りの旅に出ました。
そこまでするほど、すでにコーヒーの「味」の奥深さに取り憑かれていたんです。
事前にアポを取って有名なコーヒーショップのオーナーやバリスタにインタビューをし、焙煎や抽出を見せてもらい、一緒にカッピングと呼ばれるテイスティングも繰り返しました。
僕が焼いたコーヒー豆も持って行き意見ももらったり、エスプレッソからドリップまであらゆるコーヒーを飲みまくりました。
時に飲みすぎて、13杯飲んだ日にはコーヒー酔いをしてまっすぐ歩けなくなりました。
帰ってきていざ日本のコーヒーシーンを見たとき、まだまだ自分に変えられる余地がたくさんある、と確信しました。
美味しいコーヒーの基準
ロースターにとって一番大切なのは、何が美味しいコーヒーなのか、目指す味のゴールが明確かどうかです。
試せばいろんな焼き方は試せるけど、それがどう美味しいのか判断ができないと、いいものはつくれないのです。
ロンドンとノルウェーの経験のおかげで、自分である程度コーヒーの味を判断できるようになりました。
酸味・甘さ・香り、、判断するそれは、焙煎の結果ではなく、素材の味です。
野菜と同じで、農作物として持っている味を焙煎でうまく引き出せているか?
焙煎によって甘くはなるけど、しすぎると焦げて素材の味がわからなくなってしまいます。
コーヒーの社会性
コーヒーが面白いのは、味だけではありません。
コーヒー豆を農園から買うとき、15年前までほぼ「量」だけで評価して、その年の相場で価格を決めていました。
農園のボイコットや味への需要が増え、2000年以降ようやく、「質」を評価する制度ができました。
美味しければ美味しいほど高い値段で買われるコーヒーは、味がわかりやすいので、産地によって作り方によって全く味が変わってきます。
それも楽しむために、誰がどこでどうつくったか、そんな作り手の情報も明かされて取引がされます。
そんな、ていねいに作った産地の味を楽しむコーヒーは今スペシャルティコーヒーと呼ばれています。
今では日本に流通する95%が量で主に評価されたコーヒー、5%が作り手の情報がわかる「質」で評価したコーヒーと呼ばれています。
こんな分類は適切ではないかもしれません。
ただ僕は、こんなコーヒーを飲む人が増えれば増えるほど、生産者により正当なお金が渡り、生産者はもっと美味しく作ろうと努力し、美味しいコーヒーが生まれ、もっと美味しいコーヒーが楽しめる、、そんな社会的な循環がつくれるのではないかと思い、やりがいを感じました。
まずは「知ってもらいたい」の一心で、気づいたらお店が完成していました。
今年にはコーヒー農園にも行きました。
伝えたいこと
コーヒーはもともと果実です。
コーヒーチェリーと呼ばれる果実の種を洗って乾かしたものがコーヒー豆です。
もちろん農作物なので、その土地や品種によって味は全く違います。
野菜やお米とまったくおなじ。
そんなコーヒーに僕たちは毎日触れていますが、味の違いやどう作られているかなんてほとんどの人が知りません。
味のわかる男とか言うけど、誰が飲んでも明らかに違うと分かるほど、素材の味はちがうのです。
レモンやピーチ、いろんな果実にたとえてその味は表現されます。
そんな日常飲むモノの「素材」に注目してほしい。
購買行動はその人の意思表示です。
まずはなによりも、コーヒーは苦味じゃないってことを知ってほしい。
きっと飲食だけでなくほかのあらゆるモノコトへの興味が広がるはずです。
僕のお店は吉祥寺にありますが、渋谷のTECH LAB PAAKやFabCafe Tokyoでも僕のコーヒーは飲むことができます。
コーヒーを通して人と人とがつながるのもまた大きな魅力です。
僕はこれからも「美味しいコーヒー」と、「美味しいコーヒーがある空間」を作り続けたいと思っています。
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